この夏、気付けば学年の境を越えて言葉を交わすようになっていた恋のライバルたち。
休みの最後の思い出作りに、せっかくだからみんなで一緒に遊びに行こうなんて話になって。
「やっぱり今年も混んでるね」
着用必須の協定を設けた浴衣姿で、声音も明るく雑踏を歩む。
金魚すくいにりんご飴。規模はそんなに大きくないけど、出店も並んで活況だ。
竹寿司のおじさんが出す焼きそばは絶品と評判の名物。
あんまり慣れない草履の違和感も気にならないくらい、笑ってはしゃいで過ごしていたのに。
「ねえねえこれ見、………あれ?」
振り返った先に、残りの三人の姿がない。
嘘でしょう、メインのお楽しみがいよいよこれからって時に。
悲しいかな、私は見事にはぐれてしまっていた。
ろくな思い出がなかったような、よくよく考えると少しだけあったような今年の夏休み。
少なくとも天下統一には一歩も近付かず迎えた終盤。
(……どうせならあいつと来たかった)
―なんて夢のまた夢か。小さく嘆息しつつ、ひとり人混みを掻い潜る。
たこ焼き、焼き鳥、かき氷。たまの屋台メシは嫌いじゃない。
所狭しとびっしり水に浮かべられた蛍光色のスーパーボール。
うきうきとド派手な浴衣を身に纏っていた孔雀野郎の顔を苦々しく思い浮かべた時。
「…………何やってんだ、一人で」
視線の先で頼りなげにきょろきょろと辺りを見回すのは紛れもない想い人。
声をかけない手があるか?―否、あるわけがない。
逸る思いを抑えつけ、俺は一歩を踏み出した。